父のiPAd

私の父は昭和4年生まれで、今年84歳になります。
最近は手と目が不安になったため、半分引退状態です。
それでも昔からの患者さんを診ています。
というより患者さんが離してくれません。
とても元気です。
どの位元気かと言いますと、こんな感じです。
60代の時、「70歳になったら引退する」と宣言しました。
70代の時、「80歳になったら引退する」と宣言しました。
そして、80歳を越えてから、何も言わなくなりました。
大学を辞めて跡を継いだ兄が「騙された」とつぶやく位元気です。

そんな父が、iPadを買いました。
元々パソコンを使っていたのですが、老眼が進んで操作がおぼつかなくなってきたのです。
iPadはよくできています。メールやインターネットも直感的に使えます。
見えにくかったら、近づければいいし、文字の拡大も思いのままです。
メールの添付ファイルを見るのも、デジカメの画像を取り込むの、iPadを使えば老眼の父でも簡単にできます。
無線LANに対応したプリンターを使えば、印刷も簡単です。
今では、夕食後に囲碁ソフトをしながらTVのニュースを見るのが、父の日課になっています。
実に便利な機械です。

では、どうしてこのように便利な機械が今までになかったのでしょう?
タッチパネルは30年ぐらい前から実用品が出ています。
iPadと似たような形の端末は20年ぐらい前からあります。
というより、Apple社自身が20年前にNewtonという商品を出して、見事に大コケしています。
iPadのサイズであの性能を出せるまで、技術の進歩が必要だったのです。

人類を初めて月まで行かせたアポロ計画があります。
アポロ計画に使われたメインコンピュータと、20年近く前に出たWindows95の頃のパソコンの性能が同じくらいと言われています。
iPadの性能は、その後に出たWindowsXPの頃のパソコンとほぼ同じと言われています。
つまり、iPadはアポロ計画に使われていたメインコンピュータよりも、性能がいいということになります。
技術の進歩は驚くべきものです。

この話をアポロ計画を目の当たりにした世代の人にすると、大概驚かれます。
そして、「そんなにすごいのなら一つ買ってみよう」という話になります。
実際に買われた方もいます。もっともそれで実際に使えるかどうかは、また別の話です。

これに対してパソコンが当たり前の世代の人に、この話をすると反応が違います。
「アポロ計画って、そんなにやばい代物だったんですか?」と。
パソコンを使って、フリーズしたり、書きかけのファイルを失くした経験があれば、そう思うのは当然です。
そうだけど、それを言われると凹むなぁというのが、偽りのない心境です。

ところが、先日平成生まれの大学生にこの話をしたところ、こんな答が返ってきました。
「アポロ計画って、何ですか?」

……ジェネレーションギャップでしょうか?
ケネディ大統領が草葉の陰で嘆息していそうです。
アポロ計画がスタートしてから半世紀以上経っています。
昨今の歴史教育では、現代史が軽視されていると聞きます。
興味がなければ知らなくても仕方ないのかもしれません。
なお、明治製菓のアポロチョコレートの由来を話したら、感心されました。

ちなみに、この話を父にしたところ、こんな答が返ってきました。
「その子も人に聞く前に、ググってみればよかったのに」
ジェネレーションギャップは、個人の努力で埋められるのかもしれません。

……多分。


【DentalDiamond 2013年6月号掲載】


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