#105 歯髄に炎症が起きているから歯髄炎

今回は、歯髄炎です。文字通り歯髄が炎症を起こしています。
皆様が痛いとおもっている虫歯は、大概はこの歯髄炎です。
世間一般で虫歯と思われる症状は、歯髄に炎症が起こった時点で虫歯とは別の病変に分類されております。

歯が虫食ったように穴が開くから、虫歯。
歯の知覚が過敏になって本来なら感じない刺激に感じるようになるのが、知覚過敏。
歯髄に炎症が起こるから、歯髄炎。

こうして整理してみると、歯科の病変のストレートな命名に、めまいがしてしまいます(^^;。


ともあれ、歯髄炎ですが、大雑把に言うと次のように分類します。

①しょう液性歯髄炎 :虫歯があって歯髄に炎症がある。
②化膿性歯髄炎 :歯髄が細菌感染し、炎症がある。
③歯髄壊死 :歯髄が炎症し、壊死する。

この他にも副鼻腔炎が歯髄に波及して起きる上行性歯髄炎というのがあります。
特殊ケースということで、今回の説明からは除外します。

大雑把に言いますと、炎症が悪化するにつれ、
しょう液性歯髄炎>化膿性歯髄炎>歯髄壊死の順で移行すると考えられています。

どうしてこうなるかというと、化膿性歯髄炎の原因菌が口腔常在菌だからです。

人間は、細菌と共生関係にあります。分かりやすい例が腸の中に住んでいる乳酸菌です。
人間は乳酸菌に生活環境を与えます。乳酸菌は腸内で繁殖して消化を助けます。
双方にとって利益があります。このような共生関係があるのは、腸内だけではありません。
身体の表面は全て細菌に覆われていて、共生関係にあります。
これらの菌を常在菌と呼びます。
常在菌と共生関係にあることで有害な病原菌の感染を防いでいます。
庭に番犬がいるから、悪い人が近づけない。そういうわけです。

細菌感染には、色々と種類があります。その中で常在菌に感染するのは、日和見感染といいます。
常在菌は人間と共生関係にあるので、基本的に人間に悪さをしません。
よく躾けられた番犬は、飼い主を咬みません。
しかし、番犬に餌をあげなかったり、尻尾をふんだりしたらどうなるでしょう。
怒った番犬に咬まれても仕方がないと思います。

疲労や病気で免疫力が落ちると、共生関係壊れてしまい、常在菌が悪さをしてしまう。
これが日和見感染です。

ちなみに、この日和見感染の代表的な例が水虫です。
日和見感染を確実に治すには、薬ではなく、常在菌が悪さをしない環境にすることです。
お腹がすいた番犬にはちゃんと餌をあげればいいのです。
水虫の場合は、水虫菌が繁殖できないような健康な肌になればいいのです。
水虫を薬で退治してもすぐに再発するのは、肌が健康になっていないからです。
日和見感染が起こるためには、最初に免疫力が低下しないといけないのです。
番犬に咬まれないためには、ちゃんと餌をあげればいいのです。

この場合は、次の2つのケースが考えられます。

(1)虫歯や事故などによって歯が崩壊し、歯髄が露出して免疫力が低下する。
(2)しょう液性歯髄炎になり、免疫力が低下する。

しょう液性歯髄炎が虫歯が悪化したことを考えると、ほとんどが虫歯が悪化することによって起こると考えていいわけです。

そして、歯髄炎が悪化した結果、歯髄壊死が起こるわけです。
つまり、歯髄炎は、基本的に虫歯が悪化した結果起こるわけです。

では、ここで問題です。虫歯としょう液性歯髄炎の違いは、歯髄に炎症が有るか無いかです。
それでは、どうして歯髄に炎症が起きるのでしょうか?

前々回で触れたように、虫歯が歯髄が露出していないのに何故か歯が凍みるのです。
そして歯髄炎は、多くの場合は歯髄が露出していないのに、何故か歯髄に炎症が起きているのです。

この差はどこで生まれるのでしょう。

虫歯からしょう液性歯髄炎に移行するためには、何らかの刺激が増えなければ行けません。
ですが、成人の虫歯は基本的に慢性病変です。5年10年とかけて進行します。
言い換えると、昨日の虫歯と今日の虫歯は大きさが殆ど変わりません。
ですが、ある日、突然歯がしみてきます。虫歯の大きさが変わらないのにです。

そして、それと同じように、ある日突然、歯髄に炎症が起きるのです。
虫歯の大きさは変わらないのにです。
虫歯から歯髄への刺激は変化が無いのに、歯髄は何故か炎症を起こすのです。

水滴が長い年月をかけて岩に穴を開けるように、微小な刺激が蓄積して炎症が起こると考えることもできます。
ですが、生物には身体を治す力があります。刺激が加わって何らかのダメージを受けても、身体が治すのです。
言い換えると、外部からの刺激と治癒力が釣り合ってバランスが取れているのが慢性病変です。
水滴が岩に穴を開けても、すぐに塞いでしまうわけです。
歯髄が炎症を起こすためには、このバランスを壊さねばなりません。

つまり、虫歯が大きくなる以外の何らかの変化がないと、これらの病変が起こる説明がつかないのです。
言い換えると何故歯髄炎が起こるのか、科学的根拠がないのです。
少なくとも現時点では、それはわかっていません。
そして、恐ろしいことに、誰もその点について疑問に思っていません。
だから、今まで誰もこの問題に声を上げなかったのです。

その理由は何度も言ったように、痛みを計る方法がないことがあげられます。
そして、痛みを計る方法がなくても、麻酔という痛みを止める方法があります。
このため、研究する必要性がありません。
研究する方法もなく、需要もない。仮に疑問を持った人がいてもなす術がありません。
だから誰もこのことを問題にしません。
ですが、問題を追及しないからといって、問題が消滅するわけではありません。
何かがバランスを崩していないとおかしいのです。

誰も見えていない。誰も気にしてはいない。だけど存在する何かがないと説明つかないのです。
虫歯の症状を悪化させ、歯髄炎を起こすパラメータが存在していないと、おかしいのです。

それを考えるために、歯に炎症がないのに歯が痛くなる病変があります。
次回でそれを考えてみたいと思います。



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