#106 歯の周りが痛いのに、何故か歯が痛いという不思議

歯医者に来る患者さんの中に、歯が痛くないのに歯が痛いという患者さんが、結構来ます。
というより、最近は虫歯じゃないのに、歯が痛いという患者さんの方が多いと思います。
以前はこうではありませんでした。理由は虫歯の本数が激減したからです。

虫歯の最大の原因は砂糖です。そして砂糖の普及と共に急速に増加した病変です。
砂糖の消費量と共に虫歯が増えたと言っても間違いありません。
戦後の砂糖の輸入量の拡大と虫歯の罹患者の増加数が綺麗に一致した統計データがあります。
時代を経るにつれ、歯磨きの習慣が普及すると共に、虫歯の罹患率は低下していきます。
一例をあげると、昭和40年代は、小学6年生の虫歯と治療した歯の本数の総和は、平均12本でした。
ところが、昨今の小学6年生は平均1本を切っています。

このデータのグラフは私が学生時代は歯科の教科書に載っておりました。
ただ、あまりにも砂糖の輸入量と虫歯の本数が符合しすぎるので、かえって信憑性がないという理由で、昨今はお蔵入りになっています。さすがにその理由はアレだと思います。実際は別の理由なのでしょうが、そういう噂が聞こえるくらいに、データがそろっているのです。


ともあれ、以前は歯が痛いという患者さんは、大きな虫歯が何本もあるのが普通でした。
そして虫歯が大きくなると抜いてしまうというのが、一般的な治療法でした。
ところが、歯磨きが普及し虫歯の本数が減りました。
これと平行して歯を残す技術が進化し、以前なら抜くべき歯も残せるようになりました。

このため、歯が痛いという患者さんが、肉眼で見たところ、虫歯が1本も無いというケースが増えております。
では、虫歯がないのに、何故歯が痛いと言って来る患者さんが居るのでしょう。

それは、歯の周りが痛いのに、患者さんは歯が痛いと認識しているケースが多いのです。
具体的には、歯の根っ子の尖端や歯の周囲の骨が破壊され、その部位に炎症がおこると歯が痛いと感じるのです。
ちなみに前者を根尖性歯周炎、後者を歯周病の急性化と呼びます。


#102で触れたように、歯の感覚は歯にある神経ではなく、歯の周りにある歯根膜にある神経が司っています。
咬むと歯が沈み歯根膜が変形します。そのときの変化を捕えて、脳へ送ります。
脳はこれは、歯が咬んだと認知します。

ここで、歯の周囲に炎症があるときは、どうなるでしょう。咬むと炎症部位を刺激します。
炎症があるところを突くのですから、当然痛いです。炎症があるときは、痛いときです。
痛い時に痛い真似をするのです。だから、凄く痛いです。

問題は、この歯周組織を支配している神経は、歯や歯根膜に繋がっているのです。
そして、歯根膜にある神経は、咬んだときに歯として脳が認識しているのです。

咬むと歯が沈み、歯根膜を変形させます。そのときの刺激を歯根膜が受けて脳へ伝えます。
歯周組織に炎症が有る場合、歯に加わった力が周囲を圧迫し、炎症部位を刺激します。
当然、痛いです。そして痛みの信号が悩へ伝えられます。

歯を咬んだという信号と、痛いという信号が同時に伝わります。
そして、その信号を伝える神経は、同じか隣接しています。脳はその違いを認識できません。
というより、信号が多すぎて脳が判断できなくなるのです。

10人が同時に話をして聞き分けられるのは、聖徳太子だけです。
そして聖徳太子クラスの偉人は、めったにいません。
あるいは、インターネットでサーバーにアクセスが増えすぎて、サーバーがダウンしている状態という方が分かりやすいかもしれません。

よって脳は、歯周組織に炎症があっても歯が痛いと認識するのです。

こういう風に痛むケースは、一度虫歯を治療した歯に起こることが多いのです。
このため、虫歯の治療が済んで歯が痛くらないはずなのに、何故か歯が痛いという状態になります。

無論、炎症の状態によっては、歯ではなく歯茎が痛いという患者さんも大勢居ます。

ただ困ったことに、歯の周囲に炎症が何もなく、虫歯も無いのに何故か歯が痛いという状態になることがあります。
これが虫歯の痛みが何故痛いのか説明できない理由の一つになっています。
次回は、そのことについて触れたいと思います。



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