#108 歯だけではなく、全身が痛いという困った状態

歯科で扱われている主要な疾患は、虫歯、歯周病、顎関節症の3つです。
この他に細かい病変は多数ありますが、主要と銘打つとこの3つになります。
インプラントや入れ歯は、治療法であって疾患ではありません。


虫歯と歯周病は、皆さんご存知だと思います。
しかし、顎関節症はあまり身近ではないと思います。
顎関節症は、正式には顎関節症候群といいます。
症候群とは、『原因が特定できないが、こういう症状の集まり』のことを言います。
これに対して、病気は『原因が特定できる特定の症状の集まり』を指します。
例としてインフルエンザを上げましょう。
インフルエンザは、インフルエンザウィルスに感染し、悪寒、発熱、咳などの諸症状がでた状態を指します。
原因と症状が明確なのです。


これに対し、顎関節症は次の3つの症状のどれかがある状態のことを指します。


①顎が痛い。
②顎が開け閉めするときに音がする。
③顎の開け閉めをするときに問題がある。


要は顎の機能に問題があり、うまく動かない状態の総称です。
顎の機能障害と指すものだと思っていただけると間違いありません。


だから杓子定規に定義に当てはめると、顎を開け閉めすると音がするだけでも、顎関節症に分類されます。
臨床では顎の開け閉めが生活に支障がでるようになっている状態を指すと思っていただければいいと思います。
ただ、歯科に来られる顎関節症の症状は、こんな簡単なものではありません。
ある意味、歯科に来る最も気の毒な患者さんたちといっても言いと思います。


顎関節症で悩んでいる患者さんの状態の酷い方は、原因の特定できない苦痛に悩まされています。
この原因が特定できない痛みを不定愁訴といいます。それも痛みが出るのは顎だけとは限りません。
偏頭痛や目眩といった症状をはじめ、全身に症状が出る方も少なくありません。
そして、その苦痛が際限なく患者さんを苦しめるのです。まるで拷問を受けているようなものです。
精神を病むところまで追い詰められる方も大勢居ます。


では何故原因を特定できないかと言うと、レントゲンなどの検査で特定できないからです。
勿論、レントゲンで顎の骨や関節の異常を発見できるケースも多いです。
ですが、そこで結果が出ても、それが特定の痛みと因果関係の立証が困難なのです。


例えば、顎の開け閉めに痛みが走り、偏頭痛に悩まされる方が居ます。
この方が歯医者に来院し、顎の関節に異常があることがわかったとします。
ですが、それが偏頭痛の原因であると、どうやって証明すればいいのでしょうか?


これが偏頭痛なら、顎も頭の一部ですから、証明できなくても何か関係がしていると強弁することは、それほど無理ではないでしょう。
ですが、顎を大きく開けると顎と関係のない場所に激痛が走るといった症状の場合は、どうなるでしょう。
具体的に例をあげるると、信憑性がなくなるくらい顎関節症の不定愁訴は、ありえない症状が一杯あります。
というより全身に関わるような不定愁訴を訴える患者さんは、顎関節症と分類していいものなのなのか疑問に思うレベルです。


繊維性筋痛症という原因不明の難病があります。
原因の特定が不可能で、このためごく一部でしか研究していないという難病です。
重度の方はそれこそ指一本動かすだけで全身を苦痛に苛まれるという気の毒な状態に陥ります。


症状が全身に及ぶような重篤な顎関節症は、この繊維性筋症の患者さんのうち、最初に顎に症状が出た方のことではないかという意見があります。私はこの意見の支持者です。


ともあれ顎関節症と診断されると、大概は大学病院などの専門的なところへ紹介されるのが、普通です。
というより、重篤な顎関節症は専門医院でないと対処できません。
その治療も原因を根絶ではなく、症状の軽減を目標に行われることが多いです。
なにせ、原因を特定できませんから原因を除去する術がないのです。


ただ、ここまで顎関節症の治療で迷走する原因の一つは、顎関節症の定義にあります。
上記したように3つの要件のどれかを満たしていれば顎関節症なのですが、とてもアバウトなのです。
『①顎が痛い』とありますが、どの状態を指すのか定義されておりません。
極論するとカキ氷を食べて歯が凍みても、顎関節症と診断することができます。
それなので、虫歯で歯が痛くても、親知らずが腫れて口が開かなくても、顎関節症と診断できるのです。


つまり、顎の機能に何らかの問題があると、広義の意味で顎関節症になってしまうのです。
実際は歯に穴が開いていれば虫歯と診断されます。
親知らずが腫れていれば、智歯周囲炎と診断されます。
智歯は親知らずの別名です。智歯の周りが腫れているので智歯周囲炎というわけです。
ともあれ、虫歯を顎関節症とわざわざ言いません。虫歯という病名がついているからです。
ですが顎関節症の定義を杓子定規に解釈すると、歯が痛くなった時でも顎関節症であると主張できるのです。


そして、何度も書きましたように顎関節症の痛みの多くは原因不明です。
レントゲンを取って、顎の骨の形が変わっているような確認ができればいいですが、そこまで症状が進む前に痛みがでる方が多いのです。


今まで書いてきましたが、虫歯の痛みを歯髄炎の痛みも原因の特定がされていません。
少なくとも虫歯の痛みの原因は、科学的に証明されていません。


つまり、歯に関する痛みは、原因が特定ないし、証明されていない事が多いのです。
それこそ、虫歯も歯茎が腫れるのも、顎関節症も、どのように痛いのか科学的に証明されていません。


ただ現実問題は、歯に穴が開いていれば虫歯、顎が上手く開け閉めできなかれば顎関節症として診断され、治療されているのです。何故なら、歯医者の仕事は患者さんを治すことで、原因を特定することではないのです。


勿論、原因を特定でき、その上で治療できれば最善です。
ですが今まで書いてきたように、痛みをはじめとして客観的に計測することが困難なことが多々あるため、原因を特定できないのです。


病気を治すのは、原因を特定し、その原因を取り除くことができるのが、第一です。
それが出来なければ、その症状を抑える治療をするしかありません。
前者を原因療法ないし根治療法、後者を対処療法といいます。
風邪を引いたとき、温かくして頭を冷やすのが対処療法です。
風邪のウィルスを特定して抗ウィルス剤を飲むことが原因療法です。
風邪のウィルスを特定して抗ウィルス剤をを使わないのは、原因療法に手間と時間がかかる上、対処療法で治ってしまうからです。

歯医者の治療は、風邪の治療と同じです。基本的に対処療法なのです。
虫歯の痛みの原因は未だ立証されていません。
その最大の理由は何度も書いたように、痛みを客観的に計る方法がないからです。


ここで、敢えて一つの仮定を考えて見ます。
虫歯も歯髄炎も歯周病も顎関節症も、痛くなる原因は実は同じであるという仮定です。
その仮定が設立するためには、歯科疾患の痛みを増悪している因子が存在する。
そしてその因子は、現代の科学では客観的に計測ができない。
その因子を特定できることが出来れば、今よりも痛くない治療ができるのではないか。


その見えない因子を特定するために、今まで歯科の治療で客観的に測れない故に、誰もが見過ごしている事象を次章からお話したいと思います。それは今の科学技術では、誤差やエラーとして計測対象の外に追いやられているものです。些細なものの積み重ねですが、お話したいと思います。




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